選評

評者 渡辺 えり

劇団大阪50周年記念応募作品の審査を終えて

 

広島友好さんの「お忘れ物係・草野路男」は現代日本が抱える諸問題をテーマにした面白い作品だった。忘れ物をした一人一人のエピソードも観点が面白く、草野氏の人生の歴史が正義を通そうとして屈しせざるを得ない市井の人の代表のようで、その無念さを昇華しようとした試みを買いたい。しかし、一つずつのエピソードが終わると役者が退場してまた一から始まるのがもったいない。人物たちがその場にい続けながら互いに会話することはできなかったのだろうか?そして一番残念なのは作者も気が付かないで書いたのであろう、女性差別と蔑視である。劇団大阪の方たちが演じたら面白そうな戯曲であっただけに、それが一番残念である。

 

はるやまなかおさんの「あんバランス」は同じセットと同じ登場人物による時間の推移、死者の登場の仕方などもうまく、台詞も笑わせてくれる。しかし、コロナウイルスが蔓延し、家族でもその死の現場に立ち会えないような異常が現実となった今、松山の死をこんなにも簡単に描いて良いのか?この作品のあまりのクールさにショックを覚える。ミステリーのためだけに人一人を殺して良いものか?疑問が残ってしまった。

 

 山脇立嗣さんの「空蝉が泣いている」は本当に泣けた。号泣した。最初笑えてどんどん引き込まれていく。老婆の役も劇団大阪の女優さんがやってみたい役であろうと感じた。テーマも良い。しかし、やはり一人芝居を書き直したといつた感はいなめない。題名も「陽だまりの椅子」の方が良いように思えた。私はとても好きな作品だった。

 

 岡田鉄兵さんの「医者の玉子」も泣ける作品であった。そして、普通戯曲というのはストーリーや役柄を台詞で説明するというのが一番の邪道で、説明を排し、今人間が喋っているように書くというのが基本中の基本なのだが、岡田さんは台詞での説明が面白いという稀有な作品を書いた。登場人物たちが「愛」のために嘘を付いている。その嘘が切なくいとおしい。全員が優しく哀しい。台詞の青さも含めて劇団大阪のベテランたちが演じたらさらに面白くなるだろう。

 

 くるみざわしんさんの「叫ばれなかった人」はテーマは面白く台詞も魅力があるが、別役実の「不思議な国のアリス」や「アイアムアリス」と比較してしまった。くるみざわさんの作品はいつも面白く拝読しているが、この作品に関しては既視感があった。そして劇団大阪の役者がのびのびと演じられる作品とは思えなかった。

 

 高木由起さんの「真ん前のプリちゃん」は女性の視点で書かれた面白い作品のはずだとは思うのだが、何度読んでも分からない点が色々とある。「真ん前のプリちゃん」という意味さえ私には分からなかった。そして、親友との約束という重要なテーマの一つのはずのシーンが他と並列に思えるのも残念だ。信子と文子は65歳、私と同じ年の二人である。女性の親友がいかに大事か分かっているだけにその部分のリアリティーがもっと欲しかった。現場の声を聴きながらどんどん書いていって欲しい。伸びて行く人だと思う。

 

 吉村健二さんの「十四歳」は戦争の悲劇を描いた力作で、その苦労には敬意を表するが、肝心のテーマがはっきりしないように思われた。「オンバシラ」という祭りを作者がどう捉えているのか?戦争と女性をどうとらえておられるのか?そのエピソードを劇中劇にする意図は?と色々と疑問点が残る。戦争当時と現代では日本の状況は違うと言っても女性に対して偏見があるように思われる箇所が多くあるように感じ、同世代の人間として、直にお会いして話をお聞きしたいと思った。

 

 新型ウイルスのせいで生の舞台が中止になったり延期になったりと演劇人にとって不遇な世の中となった。こういう時こそ演劇でお客様たちを慰め勇気づけたいと思うのに非常に残念である。しかし、今だからこそ戯曲は大事である。戯曲を書くという力を希望を失わず頑張っていきましょう。

 

 大切な作品を応募して下さりありがとうございました。私も勉強になりました。